『飛影 夢小説』



クリスマスには会えるかもしれないと思っていた。
期待していなかったと言ったら嘘になる。


暫く飛影に会っていない。


「年が変わる前には会いに来てやる。」

飛影は魔界へ戻る間際に不敵な笑みを見せてそう言った。


あの日は残暑が厳しくて朝から暑かった。
口数が少ない飛影から詳しい話は聞けなかった。
ただ、魔界で面倒な問題が発生しているからと
それさえ片付けばゆっくりこっちに来られるからと。

「あっさり死ぬんじゃないよー。」

平気な振りして
冗談めかして
やっと口から吐いて出た言葉。

「当たり前だ。」

憮然と答えた後、飛影は柔らかな眼差しを向けた。

「心配するな。」

泣きそうになるのを必死で堪えた。



年が変わるまでにと言っていたけどそれは大袈裟な話ですぐに片がつくものだと思っていた。
飛影からの音信はなく、詳しい話を聞くのは嫌だと蔵馬や幽助にも詳細を尋ねなかった。
飛影が元気でいてくれるのは嬉しい反面、会いに来てくれないのかと不満と不安に苦しくなるのがわか っていたから。



秋が過ぎて街の景色が鮮やかに変化して、テレビCMもクリスマスだと盛り上げる。
これが26日になると一気に世間は正月カラーに染まるのだから面白い。



去年のクリスマスは、飛影にサンタの格好で窓から入って来てとお願いしたら、凄く不機嫌に却下された。

「クリスマスにサンタの姿で現れてくれたら嬉しいな。」
「サンタ?」
「知らないなら蔵馬か幽助にでも教えてもらいなさいよ。」
「それくらい知っている。」

憮然としている飛影の表情を見れば、サンタがどういうものか知らないのに悔しさからそう答えたのは一目瞭然。

「サンタは袋一杯にプレゼントを持って来るんだよ。」

意地悪に付け加えてやれば、ちっと舌打ちして睨まれた。

「ふん、誰がそんなものに付き合ってやれるか。」


クリスマス当日にこれ見よがしに不機嫌な顔で現れた飛影に、突然プレゼントだと言って手編みの白い
マフラーを首に巻いたら、驚きながらも嬉しそうに小さく笑ってくれたっけ。
はショッピングモールに飾られた大きなツリーを見上げて、その時の飛影の顔を思い出し複雑な笑みを浮かべた。






部屋の電気を全て消して、大きめのアロマキャンドルに火を灯した。
クリスマスは一年のイベントの中で一番好き。
独りで過ごすクリスマスでも嫌いじゃない。

ただ一緒に過ごしてくれただろう相手が
飛影がここに居ないのが
飛影の声を聞けないのが

―――淋しい。


「でも後数日待てば飛影に会えるよ。きっと会える。」

自分に言い聞かせるように呟いて、小さく揺れる炎を眺めた。



25日が終わりを告げようとしていた頃・・・



窓が開く音がして
強い風が吹いて
蝋燭の灯が消えた。


大きく揺れたカーテン。
窓枠に立っている黒い影。


背に月の光を受けて影になった顔は良く見えない。


「間に合ったか?」
「え?」
「間に合ったのか、と、聞いたんだ。」

心なしか息が切れているように聞こえる。

「間に合ったって・・・?」
「日付は、変わっていないか?」
「・・・うん。」

時計を見たら日付が変わる約10分前。

「ふーっ、間に合ったな。」

間に合ったって・・・まさかクリスマスに?

「生憎、赤い服もプレゼントやらもないが。」

足音を立てずに近づいてくる。



これは・・・夢・・・?

、おい。」

肩に置かれた手の重みに夢じゃない。

「おい。」
「・・・トナカイは?」
「は?」
「サンタはトナカイに引かせた橇に乗ってくるの。」
「何を言っている?」
「やっぱりサンタじゃないんだ。」
「俺よりサンタの方が良いのか?」
「でもサンタはプレゼントを連れてきてくれたみたい。今までで最高のプレゼントを。」
「・・・・・・・・・」
「飛影」

は両手を広げて飛影を見上げた。
瞳は笑っているが、口の端を僅かに歪ませて何かを堪えている。
飛影は黙ってを両腕でしっかり包んだ。


「・・・へへ、飛影だ。」
「器用な奴だ。泣くか、笑うかどっちかにしろ。」
「今は無理。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・すまなかったな。」



たったその一言に飛影の言いたいことが全て詰まっているのが伝わって
首を小さく左右に振って答えの代わりに飛影の背中に回した腕に力を込めた。
今、何かを言おうとしただけで涙が止まらない。
それでもこの言葉だけは伝えたい。
は飛影の耳元で言葉を詰まらせながら囁いた。


「飛影・・・・来てくれてありがとう。そして・・・・・・・・メリークリスマス。」
「・・・・・・ああ。」



飛影が背中をゆっくり何度も擦ってくれるのが心地良くて飛影の腕の中で目を閉じた。


遠ざかっていくジングル・ベルの音を聞きながら


明日の朝、目が覚めてもこの温もりが傍にありますようにと祈りながら



                                 FIN.


相変わらず、甘め嗜好ですが。。。(苦笑)
少しでも気に入って頂けたら幸いです。



すみません、クリスマス過ぎてしまいました〜m(_"_)m
ああ、折角の素敵なクリスマスドリームだったのに・・。
B w/z Rの春海様から送っていただきました。
ありがとうございました。


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